第5次出入国管理基本計画が策定されました。(アクセスカウンタ8544)

 本日(9月15日)、法務大臣によって「第5次出入国管理基本計画」が策定され、公表されました。
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri06_00065.html

 出入国管理基本計画は、「出入国管理及び難民認定法」第61条の10の規定に基づき、法務大臣が、出入国の公正な管理を図るため、定めるものとされており、
(1)本邦に入国し、在留する外国人の状況に関する事項
(2)外国人の入国及び在留の管理の指針となるべき事項
(3)前二号に掲げるもののほか、外国人の入国及び在留の管理に関する施策に関し必要な事項
について定めることとされています。また、定めた時には遅滞なく公表するものとされています。
出入国管理及び難民認定法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S26/S26SE319.html

 法務省では、大体5年に1回、「出入国管理基本計画」を策定しており、前回の「第4次出入国管理基本計画」は平成22年3月に策定されています。
「過去の策定経緯及び過去の計画」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukan40.html

 今回、「第4次出入国管理基本計画」の策定から5年が経つことを踏まえ、法務省は平成25年3月に「第6次出入国管理政策懇談会」を設置し、「外国人受入れ制度検討分科会」「難民認定制度に関する専門部会」を設置するなどして検討してきました。
 また、平成26年12月に「今後の出入国管理行政の在り方」という報告書をまとめています。
「第6次出入国管理政策懇談会」トップページ
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukan41.html
「第6次出入国管理政策懇談会」名簿
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri06_00026.html
「第6次出入国管理政策懇談会」開催状況
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri06_00028.html
「今後の出入国管理行政の在り方」概要
http://www.moj.go.jp/content/001130125.pdf
「今後の出入国管理行政の在り方」本文
http://www.moj.go.jp/content/001130126.pdf

 また、6月26日に案が公示され、7月25日までの間でパブリックコメントの募集が行われました。(今日9月15日に結果が公示されています。)
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=300130087&Mode=2

 これら基本情報を踏まえ、「第5次出入国管理基本計画」をざらっと読みました。
 まだきちんと読んだわけではないですが、感想めいたことを書こうと思います。

1.(第5次計画P6)まず、在留外国人数の推移について。
 第4次計画策定時のデータ(平成20年12月末現在の外国人登録者数)の段階では、外国人登録者数、総人口に占める割合ともに増加傾向が続いていました。一方、今計画には平成26年12月末現在の在留外国人数まで記されていますが、平成20年以降、在留外国人の数と総人口に占める割合はざっくりいえば横ばいです。
 ちょうどこの期間はリーマン・ショックの後の景気低迷期を含んでいるので、今後の展開としてこのグラフがどう変化していくのかは、わかりません。

2.(第5次計画P10)また、「留学」の在留資格による新規入国者数や在留外国人は大きく増えています。
 この表、第5次計画だけ見ると、ダウンしてアップしているグラフなのですが、第4次計画P7を見ると、ちょうど10年前、平成17年の外国人登録者数は129,568人、新規入国者数は23,384人となっていますから、10年間で新規入国者数は3倍以上、在留外国人数も10万人程度増えていることになります。
 また、国籍(出身地)別の色塗りが、第4次の場合、中国(台湾)、米国、韓国、中国、となっている一方、第5次の場合は韓国、ネパール、ベトナム、中国、となっており、幅広いアジアからたくさん集まってくる動きにあるといえるのではないかと思います。

3.(第5次計画P14)データ面で一番印象深いのは「永住者」の国籍(出身地)別在留外国人数の推移です。
 これは、平成26年12月末の数字で677,019人となっており、平成22年12月末の外国人登録者数(565,089人)と比べて約11万人の増となっていますが、第4次の表と比べると、平成16年、つまり10年前の数字は312,964人となっていますから、外国人登録制度がどれだけ実態を把握できていたか、という点はともかくとして、2倍以上に増加しています。
 永住者数は31.9%を占めている、と本文にも書いてあります。ほかの人も指摘されていることですが、おそらく、永住者の数は今後減少することはなく、「増加しつづける永住者」を意識しながら、日本社会への社会統合の在り方、この計画でいえば「外国人と共生する社会」をどう作っていくかを考えていく必要があると思います。
 希望としては、その辺をもう少し後半の「主要な課題と今後の方針」で強調してほしかったような気はします。

4.(第5次計画P22)「(ローマ数字3) 出入国管理行政の主要な課題と今後の方針」の項目立てとしては、「本計画においては、今後の出入国管理行政における取組の基本方針を次のとおり定めることとする。」と打ち出したのが目を引きます。第4次計画の時には、特に「基本方針」という書き方はしないまま、各課題と方針を書く、というスタイルでした。
 これはこれで基本方針をきちんと書いているではないか、と思っていましたが、外国人集住都市会議が「国に対して明確な『外国人の受入れに関する方針』を定める」(2012 いいだ宣言)などと主張していたことも勘案して、「ちゃんと書いているのにわからんのなら、ちゃんと「基本方針」と銘打って書いておこう」ということで、このような項目立て、記載ぶりにしたのかもしれません。これなら外国人集住都市会議も文句は言いますまい。
 同じことは「1 我が国経済社会に活力をもたらす外国人の円滑な受入れ」の(1)課題等のところで、
「『専門的・技術的分野の外国人については、我が国の経済社会の活性化に資することから積極的に受け入れる。』これが、外国人受入れに関する政府の現在の基本方針である。」
と書ききったことにも言えると思います。Factとして間違ってないからこれでいいんじゃないでしょうか。

5.(第5次計画P22)少し脱線しましたが、項目立ての話に戻ると、今回、「日系人の受入れ」についての項目立て、記載ぶりがなくなりました。あと、ワーキングホリデーについての記載がなくなりました。
 後者は、正直なところどれだけ活用されているのかわからんので、まあいいんじゃないでしょうか。前者の「日系人の受入れ」については、時代なのかなあ、とも思いますが、日本に在留する外国人は日系人ばかりではなくなった、ということの表れなのだと感じます。「身分又は地位に基づいて入国・在留する外国人」は減少傾向にあり、永住化が進んでいること、ほかにも外国人はたくさん在留しているから、あえて特出しして書くこともない、という判断なのでしょう。
 引き続き、日系人に対する就労支援、日本語修得支援などは行われることが望ましいですし、この計画から離れますが、海外の日系人との交流は積極的に行っていったほうがいいと思います。

6.(第5次計画P27〜28)「2 少子高齢化の進展を踏まえた外国人の受入れについての国民的議論の活性化」の項目については、実はそんなに大きく書き方が変わったところではありません。人口動態統計の引用とかは第4次計画でも行われています。「国民的コンセンサスを踏まえつつ行われなければならない」という表現も若干字句が変わってはいるものの、トーンは同じです。
 ここのポイントとしては、第4次計画ではざっくりと国民的議論を活性化する必要がありますよ、としていたのに対して、今後の外国人受入れの在り方について「本格的に」検討すべき時が来ている、としたこと、そして、専門的・技術的分野と評価できる分野については外国人の受入れを検討していく必要がある、としたことです。
 まあ、「積極的に参画していく」というのは他人事っぽいけれども、法務大臣の策定する計画だから、仕方ないのかなあ。しかし、ではどこがまとめるのか、という話になると、内閣官房内閣府のスリム化というテーマもあるので、結局は法務省がとりまとめになるような気がしています。

7.(第5次計画P31〜33)「4 在留管理制度の的確な運用等による外国人との共生社会実現への寄与」については、第4次計画と比べてかなり分量が増えました。永住者が増えている、専門的・技術的分野の外国人については積極的に受け入れる、としたことを考えれば、流れなのでしょう。
 第4次計画の段階では、まだ新たな在留管理制度の導入が行われる前だったので、「まずは新たな在留管理制度を導入して、把握をしっかりしましょう。」というフェーズだったのだけれども、今回、フェーズが上がっているのかもしれません。
 
 P31の「ただし」以下のパラグラフについては、ちょっと外国人集住都市会議とかに気を遣ったのかな、とか感じます。まずは地方公共団体の行政サービスの円滑な提供が不可欠ですよ、地方公共団体の共生社会のイメージが何かを踏まえて国としてどうするのか議論していくんですよ、という書き方になっているので。ここは「国としてのイメージってないのかしら?」とか思ってしまうなあ。
 P32に入って、出入国管理行政と外国人との共生社会に向けた施策を車の両輪、という話は山脇さんが多文化共生に置き換えて話しているけど、「多文化共生」というタームを使うかどうかは別として、これはそのとおりだと思います。
 ぼくは、「多文化」という言葉が非常に曖昧であること、たくさんの文化が並び立っているような印象を抱くことから、「多文化共生」という言葉は使わず、「社会統合」という言葉を好んで使いますが、状態をとらえるに当たっては「外国人との共生社会」という言葉でもいいと思います。

 総務省も「多文化共生」のタームじゃなくて、「外国人との共生社会に向けた施策」と用語を整理してしまった方がいいような気もします。
 が、正直なところ、総務省が、平成18年に出した「地域における多文化共生推進プランについて」
http://www.soumu.go.jp/kokusai/pdf/sonota_b6.pdf
という文書で、
「貴団体におかれては、地域の実情と特性を踏まえ、「地域における多文化共生推進プラン」及び平成18年3月7日に公表された「多文化共生の推進に関する研究会報告書」http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/060307_2 .html)等を参考としつつ、多文化共生の推進に係る指針・計画を策定し、地域における多文化共生の推進を計画的かつ総合的に実施するようお願いします。」としているけれども、これは地方自治法第245条の4に基づく「技術的助言及び勧告」といえるのかどうか、個人的に疑問を持っています。

8.(第5次計画P32〜33)「イ 外国人との共生社会の実現に向けた取組」についても、分量が膨らんでいます。
 「受け入れた後の地域における『住民』としての視点からの検討も併せて行っていかなくてはならない。」というのはそのとおりで、「外国人の受入れによる問題の発生を受けて施策を講じるのではなく、そもそも外国人を受け入れる際に外国人と共生する施策を講じておくことが重要である。」というのもそのとおりだと思います。
 概して、外国人受入れの議論についても移民受入れの議論についても、「受け入れるかどうか」という議論に走りがちであると思います。「じゃあ、受け入れた後でどう社会統合のための施策、例えば日本語修得支援とかを行っていくのか。そして、産業界はどのように雇用主としての役割を果たしていくのか。」といった記載が薄いと日頃感じているので、たぶん、このままの流れだと、産業界が外国人受入れによる利益を先食いして、もし不況になった後の問題とかは行政任せにしてしまいそうな懸念を持ちます。
 そう考えると、「外国人の受入れによる問題の発生を受けて施策を講じるのではなく、そもそも外国人を受け入れる際に外国人と共生する施策を講じておくことが重要である。」という記載はその記載そのものが重要だと思います。
 と同時に、今も、外国人がいるわけだから、「(外国人受入れに関して検討する際には)今日本にいる人に対してどうするのか、についての検討、実施も重要である。」くらい書いてもらえば更に良かったけど、それはちょっとやりすぎなのかもしれません。

9.(第5次計画P42)「ウ 出入国管理に関するインテリジェンス機能の強化」については、全くそのとおりです。特に厚生労働省保有する外国人雇用状況届出情報と入国管理局保有の情報の突合、については、もしこういうことができるなら、官庁間の横の連携も図られるので、効率的な行政につながるのではないかと感じました。

 そんなところです。難民問題についてはほとんど知識を持っていませんので何も語れませんし、上で書いたことにも事実誤認等があるかもしれませんが、その辺は御容赦ください。
 なお、難民に関しては、法務省が「難民認定制度の運用の見直しの概要について」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00110.html
というプレスリリースを出しています。

 長くなりました。